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富士山と私

マルコ・アントニオ・マルティネス神父


 皆さん、すでにご存知のように私は休暇中の6月3日メキシコにて以前から悪かった左膝の手術を受けました。今日はこのシャロームを通して手術の日の体験を分かち合いたいと思います。

 手術室に入ったらお医者さんや看護師さんたちが何人も並んでいて少し緊張しました。でも皆さんとても親切で、優しい言葉をかけて下さり少し落ち着きました。特に手術を担当するお医者さんの励ましの言葉に心強さと安心感をおぼえました。


 いよいよ麻酔の先生が見えて、「全身麻酔で行いますから、痛みを感じるのはこの麻酔の針が刺さるときだけです」。そして酸素マスクをかけながら次のように言いました、「ご自分で一番好きな美しい景色を思い出してください」。


 そのとき思い浮んだ景色は何だったと思いますか。それは40年前、初めてこの目で見た真白な富士山の姿でした。

 その日は京都へ行く途中で東名高速道路の静岡辺りです。初めてわたしの目の前に3776メートルの富士山が現われたのです。一瞬、息をのみました。言葉が出ませんでした。その富士山は子供の頃から話を聞き、写真で何回も見ていました。でもあの素晴らしい雪を被った富士山を見て感嘆し、神さまに感謝しました。


 メキシコにも素晴らしい自然の景色があります。砂漠、ジャングル、森、湖、川そしてコバルトブルーの海などなど。でも自分でも気付いていませんでしたが、一番心に残っているのは日本の富士山だったのです。


 今年で私の日本にいる期間は42年になります。何度も、いろいろな人に「どうして日本の国籍をとって帰化しないんですか。」と聞かれます。確かに、日本国籍をとれば3年毎の帰国のための面倒くさい手続きが必要なくなるでしょう。


 でも私の答えは何時も同じです。使徒パウロの言葉を借りると、「わたしたちの国籍は天にあり」ます。( フィリピ人への手紙(フランシスコ会訳) 3:20)


 国籍やパスポートはこの世のものです。私はメキシコで生まれて、今もそのことを誇りに思っています。しかし日本に骨を埋めたいと思っています。最後まで日本と日本人を大好きなメキシコ人でいたいのです。


 そしてこの世から天の国への旅の時が来たら、この世の生命のお土産として心に富士山のイメージを持って行きたいと思います。


「シャローム」2010年09月号掲載

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